「どうしたの?」


 そう思っているとき。

 後ろから誰かの声がした。


 声は男の人。

 この学校は女子校だから、男の人の声ということは先生。


「大丈夫?」


 その声は私の方に近づいてきている。


 これは。
 確実に私に声をかけてくれている。

 そう思い。
 私は声がする方に振り向いた。


芦達(あだち)先生」


 声をかけてくれたのは。
 世界史の先生、芦達先生だった。


「僕の名字、知ってくれているんだ、神城さん」


 芦達先生は驚いている様子だった。


 芦達先生。
 その先生の名前を。
 この学校の生徒なら知らないはずがない。

 芦達先生は。
 年齢は隼理くんと同じくらい。
 そして容姿も。
 隼理くんと同じくらいの超イケメン。

 隼理くんと芦達先生は。
 この学校のイケメンツートップ。

 だけではない。
 隼理くんと芦達先生は。
 校内を飛び越えて。
 もっともっと広い範囲で。
 ずば抜けたイケメンだと思う。

 そのため、女子生徒たちにものすごく人気がある。

 そんな隼理くんと芦達先生は。
 この学校の女子生徒たちにとってアイドル的存在。

 だから。
 芦達先生のことも耳に入ってくる。

 この学校の生徒なら。
 隼理くんと芦達先生のことを知らないということは無いに等しいと思う。


 って。

 あっ。

 それくらい人気で有名な芦達先生。
 そんな先生が。
 私の名字を知っている。

 そのことが、ものすごく驚いた。

 芦達先生は私のクラスの担任や教科担任ではない。

 一年生や二年生のときも、そうではなかった。
 それだから芦達先生とは接したことはない。

 それなのに。
 芦達先生は私のことを知っている、みたい。


「芦達先生も私の名字を知ってくださっているなんて、
 ものすごく驚きました」


 だから。
 私も芦達先生にそう言った。


「もちろん知ってるよ。
 神城さんは軽音楽部の絶対的エースだからね」


 ……爽やか……。

 瞬間にその言葉が浮かび上がるくらいに。
 芦達先生の笑顔が爽やか過ぎて眩しいくらいだった。