私が飛鷹先生に想いを伝えた瞬間。
 夏の香りがするやさしい風が。
 私と飛鷹先生をやさしく包み込んだ。

 それは。
 現実ではなく。
 架空の空間にいるような。

 たぶん。
 この空間は。
 飛鷹先生の魅力から創り出されたもの。

 飛鷹先生の溢れるくらいの魅力が。
 この空間を生み出した。


 私と飛鷹先生は。
 無言のまま見つめ合っている。

 こうしている時間は。
 きっと、ほんのわずか。

 でも。
 気持ちの中では。
 何分か経っているように思える。


 飛鷹先生と見つめ合っていることは。
 とても照れて恥ずかしい。

 でも。
 飛鷹先生の瞳から逸らすことができない。

 まるで飛鷹先生が魔法をかけているかのよう。

 なんだか。
 飛鷹先生が魔法使いのように思えてくる。



「……本当……?
 本当に俺のことを……?」


 そう思っていると。
 やっと飛鷹先生が口を開いた。


 飛鷹先生は、私が飛鷹先生のことを好きだということを信じていないのだろうか。

 飛鷹先生は少し驚いた様子で私にそう訊いた。


「本当……ですよ。
 そんなこと噓をついてどうするんですか」


 自分の想いを伝えたばかりで。
 まだ緊張と恥ずかしさが残っている。

 なので返答するときに恥ずかしそうな言い方になってしまった。


「そう……か、そうだよな。
 噓をつく必要なんてないもんな」


 飛鷹先生はそう言って。


「ありがとう、夕鶴」


 やさしい笑顔でそう言った。


「こちらこそ、ありがとうございます」


 飛鷹先生に続いて。
 私もそう言った。


 でも私の場合。
 まだまだ緊張と恥ずかしさが残っていて。
 飛鷹先生のような笑顔をすることができなかった。


「夕鶴……」


 ……‼

 飛鷹先生……‼


 飛鷹先生は私の頬に触れている手を後頭部に。

 そして、そのまま飛鷹先生の顔の近くに引き寄せられる。

 同時に飛鷹先生の顔も私に近づいてきて。

 そのあと。
 飛鷹先生の唇が。
 私の唇に……。
 重なり――。



 その日から。
 私と飛鷹先生の秘密の交際が始まった―――。