「その前に夕鶴のこと、もっと欲しい」


「隼理くん……」


「夕鶴がライブの打ち合わせに行ってしまうと
 俺は寂しくてたまらなくなる」


 隼理くん……。


「私も隼理くんと離れるの寂しいよ」


 私も本当にそう思っているのに。


「夕鶴は大丈夫だろ。
 そのときはバンド仲間と一緒なんだから」


 隼理くんの言い方は。
 少し嫌味交じりで。


「しゅっ……隼理くん……っ」


 私はその嫌味交じりの言葉にどう対応していいのかわからなかった。


「それに」


 ……?


「それに?」


「ライブの打ち合わせに行ってしまったら、
 今日はそのまま家に帰ってしまうんだろ。
 そうすると俺は、もっともっと寂しくて凍えそうになる」


 隼理くん……。


「だから、せめて今、夕鶴のことを充電しておかないと」


 そう言った隼理くんは抱きしめている私の身体からやさしく離れた。


 そして隼理くんの唇が私の唇に―――。


「……隼理くん」


 私の唇に隼理くんの唇が触れる寸前のところで。
 私は隼理くんの名前を呼んだ。


「……なんで止めようとするの?」


 少しふてくされたように言った、隼理くん。


「別に止めようとしたわけではないよ」


「じゃあ、なに……?」


「顔出すよ」


「え……?」


「ライブの打ち合わせが終わったら顔出すよ」


「そんなことをしたら俺は夕鶴のことを返したくなくなる」


 隼理くんはそう言って。
 隼理くんの唇を私の唇に……。

 それは。
 甘くてとろけるような……。