次に脅迫状のこと。

 私と隼理くんのことが騒ぎになった次の日に私の下駄箱の中に脅迫状を入れたのは。
 疑いの目が隼理くんのファンクラブの生徒たちに向くと思ったから。


 栗原さんは偶然見かけた。
 騒ぎになった日、つまり脅迫状が入っていた前日。
 その日、私が隼理くんのファンクラブの生徒たちに絡まれているところを。
 そのとき偶然、芦達先生が私のことを助けてくれたところも。

 それを見て栗原さんは思った。
 次の日に私に脅迫状を送ろうと。
 って。
 栗原さん自身は脅迫状だという認識はなく、警告しただけのつもりだった。


 そして一週間後にもう一度、脅迫状を私の下駄箱の中に入れたのは。
 念を押すため。


 私に二度目の脅迫状を送った日の夜。
 栗原さんに芦達先生から連絡があった。

 芦達先生は栗原さんに『今日、神城さんの下駄箱の中に脅迫状が入っていた。
 神城さんはそれを飛鷹先生に渡したけれど、偶然その場に校長先生が来て、
 そのまま校長先生の手に渡った』と言った。

 そのとき芦達先生は栗原さんが私に脅迫状を送ったことは知らなかったからサラッと話した。

 芦達先生から話を聞いた栗原さんは、これはまずいと思い、二度と私に脅迫状を送らなかった。


 あの日から二度と私に脅迫状を送っていないから、そのまま何事もなく終息するとばかり思っていた。

 けれど。
 まさか隼理くんが教師を辞めるだなんて思ってもみなかった、と。



 取り返しのつかないことをしてしまった。
「本当に申し訳ありませんでした」
 栗原さんは私と隼理くんにそう言って深々と頭を下げた。
 その声も震えていた。


 そんな栗原さんを見て隼理くんは。
「栗原は悪くない。
 俺が教師を辞めるのは前々から決めていたこと。
 だから気にするな」
 そう言った。

「それに……」
 続けて隼理くんはそう言って。
「俺は気付かないうちに栗原のことを苦しめていたのかもしれない。
 ……すまなかった」
 頭を下げた。


「そんなっ、飛鷹先生は何も悪くありませんっ。
 私が一年生のとき、飛鷹先生が担任の先生だったから、すごく救われました。
 本当にありがとうございます。
 ですので、どうか頭を上げてくださいっ」
 栗原さんは身を乗り出すように隼理くんにそう言った。