話は栗原さんが高校一年生のときから。



 栗原さんは人見知りが激しい。

 そのためか、入学してから一ヶ月が経っても、なかなかクラスに馴染むことができなかった。


 そのとき。
 担任だった隼理くんが栗原さんを気遣っていた。

 栗原さんは隼理くんのことを頼りになる先生だと思った。


 だけど。
 月日が経つにつれて。
 栗原さんの中で隼理くんは頼りになる先生から憧れの人に変わっていった。





 そして二年生になり。
 栗原さんの担任の先生は隼理くんではなくなった。

 そのことが栗原さんにとって、とても辛く苦しく。

 そのとき気付いた。
 隼理くんのことが……好き……なのだと。
 それは人としてだけではなく……一人の男の人として……。



 だけど。
 気付いたところでどうにもならない。

 思い悩んだ栗原さんは兄の芦達先生に相談した。


 栗原さんの気持ちを知った、芦達先生。

 兄である芦達先生にとって栗原さんは可愛い妹。

 運が良いことに隼理くんは恋人がいないという情報が耳に入っていた。

 だから、どうにかして栗原さんと隼理くんの仲を取り持つことはできないだろうか。
 芦達先生はそう思った。





 しかし。
 栗原さんが高校三年生になったばかりの、ある日。


 芦達先生は栗原さんから衝撃的なことを聞いた。
『休みの日、学校外で飛鷹先生と神城さんが一緒にいるところを見た』ということを。

 栗原さんは運転席から隼理くんが見えた車が止まっているところを見たそうだ。
 そして、その車に私が乗り込むところを見た、とのこと。

『もしかしたら飛鷹先生と神城さんは恋人同士なのかもしれない』
 栗原さんは辛そうな表情(かお)で芦達先生にそう言った。


 そんな栗原さんのことを見た芦達先生は苦しい気持ちになった。


 私と隼理くんは本当に恋人同士なのか。
 隼理くんに訊きたい。

 けれど、それを訊いたら隼理くんに『なぜそんなことを?』と思われてしまう。
 だから隼理くんに訊くこともできない。

 栗原さんの幸せを誰よりも願っているのに何もできない。
 そんな自分が無力だと心の中で嘆いた。