「お待たせしました。
 まず本題に入らせていただく前に
 話の続きを少しだけ」


 ソファーに私と隼理くん、向かい側には芦達先生と栗原さんが座り。
 芦達先生が用意してくださった飲み物がテーブルに並んだところで話が再開した。


 芦達先生と栗原さんの御両親は。
 栗原さんが中学校を卒業した春休みに離婚をしたらしい。

 そのとき御両親は芦達先生や栗原さんが、どちらの姓にするか強制はしなかった。

 芦達先生は成人しているし、栗原さんも中学校を卒業している。

 そして芦達先生には妹の栗原さん以外にもう一人、七歳離れた弟さんがいる。
 その弟さんも高校を卒業した。

 三人とも自分の判断で行動できる年齢。
 だから自分たちの判断に任せたそうだ。


 芦達先生は栗原さんや弟さんと話し合った。
 三人は特にどちらの姓が良いというこだわりはなかった。
 だから話し合いには少しだけ時間がかかった。

 そうした結果。
 栗原さんと弟さんは母親の姓を。
 芦達先生は、そのまま父親の姓に。
 ということになった。

 芦達先生や栗原さんや弟さんが、どちらの姓にするのか迷っていたのも。
 御両親の離婚の原因が深刻な理由なものではなかったから。

 現に。
 御両親は離婚してからも、ときどき会っているらしい。
 離婚してからの方が離婚する前よりも仲が良くなったのだとか。

 離婚の原因は深刻な理由ばかりではない。
 いろいろあるのだな。
 そう思った。



「この話は以上です。
 ……それでは本題の方に……」


 芦達先生や栗原さんの御両親の話は終了した。


 ……いよいよ。
 芦達先生が私と隼理くんに話さなければならないという大事な話。
 その話が、始まる。

 のだけど。

 なんだか。
 この部屋に漂う空気が。
 緊迫、しているような。

 なぜなら。
 これから話そうとしている芦達先生の表情(かお)が。
 強張っているように見える。

 どのような話をするのかわからないけれど。
 その表情(かお)を見ている限りでは。
 よほどのことを話すのではないだろうか。
 そう思えてしかたがない。


 その空気を感じてしまって。
 ものすごい緊張に襲われる。

 それでも。
『落ち着いて』
 心の中でそう自分に言い聞かせる。


 そして。


「今日、飛鷹先生と神城さんに伝えさせていただく話というのは……」


 ついに。
 始まる。
 芦達先生の話が。