「校長先生」


 芦達先生がそう言ったのを聞いて。
 私と朝海は後ろを振り返った。


 そこには校長先生が静かに立っていた。


 この学校の校長先生は女性。
 品があって、とても素敵な女性。


「雰囲気からして穏やかではないことが起こっていますね」


 静かに話をする校長先生の言葉は。
 その印象とは対照的に鋭さを含んでいた。


「飛鷹先生、今あなたが手にしている紙を私にも見せてください」


 校長先生はそう言うと、隼理くんのところへ。


 そんな校長先生に。
 隼理くんは少しだけ困ったような表情(かお)をしている。


「見せてください、飛鷹先生」


 隼理くんの横に立った校長先生は、もう一度隼理くんにそう言った。


 諦めたようで。
 隼理くんは校長先生に紙を渡した。


「……飛鷹先生、
 これは、こちらに報告をしなければいけないことです。
 飛鷹先生お一人で何とかするおつもりだったのですか」


 紙を見た校長先生も深刻な表情(かお)をして隼理くんにそう言った。


「……そっ……それは……」


 校長先生の言葉に。
 少し困った表情(かお)をしている、隼理くん。


「この紙は私が預かります」


 校長先生はそう言って紙をスーツのポケットに入れた。


「あなたたちは教室に戻りなさい。
 そろそろホームルームが始まる時間よ」


 校長先生にそう言われて。
 そんな時間だったことに気付く。


 私と朝海は「失礼しました」と言って職員室を出た。