「あっ……芦達先生……」


 芦達先生のことを見て。
 私に怒鳴り声を上げた真ん中にいる生徒が血相を変えて固まった。


 私は背中向きだから芦達先生の顔は見えていないけれど、隼理くんのファンクラブの生徒たちには芦達先生の顔ははっきりと見えている。

 どこまで見られて、そして聞かれていたのか。
 そう思ったのか、隼理くんのファンクラブの生徒たちの様子に焦りの色が見え始めていた。


「なっ……何でもありませんっ。
 ちょっと神城さんと話をしていてっ。
 そっ……それでは失礼しますっ」


 隼理くんのファンクラブの生徒たちは、そそくさと私と芦達先生のところから立ち去った。



「大丈夫だった? 神城さん」


 彼女たちが立ち去って。
 芦達先生が私の方に歩み寄ってきてくれた。


「ありがとうございました、芦達先生」


 まだ恐怖が残っているのか。
 身体が思うように動かない。

 だけど声はなんとか出すことができた。


「彼女たちは一体……」


「飛鷹先生のファンクラブの会員と言っていました」


「……あぁ、そうか、
 彼女たちは神城さんと飛鷹先生の噂のことで……」


 やっぱり。
 芦達先生もすぐに察した。


「……はい……」


「だとすると、また今みたいなことが起こる危険性があるね。
 このこと担任の先生に言って、
 それから校長先生にも報告しておいた方がいいと思う」


 芦達先生は親切に言ってくれている。

 でも。


「大丈夫です。芦達先生、本当にありがとうございます。
 また同じことがあったときは報告することを検討します」


 報告すると。
 心配させてしまうから。
 隼理くんに。

 できるだけ隼理くんに心配はかけたくない。


「う~ん……本当は報告した方がいいと思うんだけど……
 神城さんがそう言うのなら……」


 私が報告しないことに芦達先生は心配そうにしている。


「じゃあ、それならせめて」


 芦達先生はそう言うと。


「僕に何でも話して。
 いつでも相談に乗るから」


 やさしく微笑んでいる、芦達先生。


「そんなこと、芦達先生にご迷惑はかけられません」


 そう言ったのだけど。


「迷惑だなんて、これっぽっちも思ってないよ。
 なんだったら今からでも大丈夫」


 親切すぎるくらいにそう言ってくれる、芦達先生。


「ご親切なお言葉、本当にありがとうございます。
 そのときは、よろしくお願いします」


 せっかく芦達先生がそう言ってくれたので。
 お気持ちだけ、いただかせてもらうことにした。


「うん。いつでも声かけてね」


 芦達先生はやさしく微笑みながら、その場から離れた。


 私も部室へ向かうため再び歩き出した。