「あっ、そうだ。
 遥稀、連絡先教えて」


「うん」


 高校生の頃。
 私と松尾はお互いの連絡先を知らなかった。

 教え合う機会もなかったから。


 そして十五年が経ち。
 こうして松尾と連絡先を教え合っている。


「ありがとう、遥稀」


「こちらこそ、ありがとう」


 十五年前の私には想像がつかない。
 そんなことが今、行われている。

 なんだか不思議。


「遥稀は今何してるの? 仕事とか」


「両親が経営しているカフェで働いてる」


「そっか、
 確か遥稀のご両親、カフェ経営してたよな。
 後継いでるんだ」


「後を継ぐ、そこまでいくかどうかはわからないけど」


 話せている。


「松尾は?」


 松尾と。
 普通に。


「俺はイラスト描いてる」


 そのことが。


「松尾、絵を描くこと好きだもんね」


 なんだか。


「ああ」


 少しだけ。
 ううん。
 すごく……嬉しい……みたい。


「今度、遥稀の店に行く」


「なんだか少し恥ずかしい」


「なんで」


「なんでだろう」


 本当は。
 わかっている。

 照れるから。
 松尾が店に来ること。


「なんだよ、それ」


 そう言いながらも。
 笑顔の松尾。


 そんな松尾に。
 私も笑顔。


 十五年前のときも。
 こんなふうに松尾と接することができたのなら。
 もっともっと楽しい高校生活だったのだろう。

 高校生の頃だけじゃない。
 小学生の頃も。
 中学生の頃も。
 今みたいだったら。
 悔いが無く過ごすことができたのだろう。


 今そう思っても仕方がないのだけど。


 だから。
 あの頃できなかった分。
 今。
 思いきり笑おう。


 そう思いながら松尾との会話を楽しんだ。