「……松尾……」
出ない。
言葉が。
これ以上。
「……久しぶり……だな。
みんなの前では言いそびれたから」
何を言えばいいのか困っていると。
松尾が話し始めた。
「……うん……」
私は返事をするだけで精一杯。
「……高校卒業以来だから……
十五年ぶり、だよな」
「……そう……だね」
真っ直ぐ。
見ることができない。
松尾の目を。
すぐに。
止まってしまう。
話が。
どうしよう。
なんだか。
気まずい。
早く。
この場から。
離れなければ。
……離れたい。
「遥稀」
そう思っていると。
松尾が再び口を開いた。
「……今から……抜け出さない?」
え……。
一瞬。
わからなかった。
松尾が言っていること。
「倫也には抜けるってメッセージ送っておくから」
言葉の意味を理解したときには。
松尾の大きな手が私の手を握り。
店を出るところだった。
驚きと動揺で。
声を出すことができないまま。
松尾に手を引かれながら歩くことしかできなかった。
それでも。
松尾の手の温もりを感じ。
ドキドキしている私がいる。
変わっていない、ほとんど。
十五年経った今でも。
松尾は。
あのときのまま。
大人っぽくはなったけど。
手を引かれながら。
後ろ姿の松尾のことを見つめ。
そう思った。