陽がだいぶ西に傾き、オルシュード宮殿の大庭園は茜色に染まっていた。

 十分な収穫だった。あの乳母は間違いなく、自動人形に関わっている。やはり黒幕はクロイス公爵だったのだ。恐らく、ルコット皇后は何も知らない。父君とあの乳母がすべてを握っているのだろう。

「あと少しです……あと少しで真相に近づけます、陛下」

 アンナは拳を握り、それに願いを込めるように、陛下への言葉を念じた。それにしても、なんて幸運なのだろう。監獄島で、看守の自動人形を触ってなければ気づかなかっただろう。以外な所に、手がかりが潜んでいたものだ。

「いや……」

 違和感。まて。違う……。アンナは握った拳を開く。職人の手。だけどあの乳母のものと違う。親指のつけ根に育ちつつあるタコ。そうだ、彼女の手は違った。彼女のタコは小指の外側。つまりアンナの指にできたものと配置が間逆だった。ということは、監獄島のあの部屋に配備されている皇室用の自動人形とは、別の機構を持つということだ。それはつまり、同系型のシリンダーを持つ、皇帝陛下の自動人形とも異なるということを意味する。

「なんてこと……せっかく掴んだと思ったのに、全く関係が無いじゃない」

 迂闊なミスだ。ただ職人の手というだけで、ぬか喜びをしてしまった。
 いや、しかし……それなら何故、あの乳母の手にタコがあったのだ? 陛下に成り代わった自動人形は無関係としても、何か理由があるはずだ。クロイス公爵家と自動人形。一体何が……

「あ……」

 頭の中で、何かがはまる音がした。今まであちこちで抱いてきた違和感。それが凄まじいスピードで一本の道へと整備されていく。真実へ到達する道へ……。

「そうか……そういう事なのね」

 確認する必要がある。しかし……マルムゼは駄目だ。この考えを彼に伝えるわけにはいかない。今、アンナが最も安全に助力を乞えるのは……そして帝国の行く末を任せられるのは……。