昇降口まで行って靴を履き替える間、重苦しい空気が漂ってみんな無言で校門に出ると、春菜は一気に肩の力を抜いて息を大きく吐いた。
「はぁあああ……危なかった」
それを合図にみんなも緊張状態を解いて冬花は春菜に称賛の眼差しを向ける。
「でも春菜ちゃんかっこよかったよ、夏海ちゃんはあたしが守るって!」
「そうよ! あたしは正義のヒーロー! なんてね!」
春菜はポーズを決めてかっこつけ、望は言い当てる。
「桜木さんもしかして日曜朝の特撮とか見てるの?」
「うん、部活辞めて試しに見たら……嵌まっちゃってさ」
春菜はちょっと照れ臭そうに言うと日曜朝にやってる特撮ヒーローの話しに花を咲かせる。すっかり仲良くなっちゃって微笑ましい気持ちになり、光は思わず口許が緩む。
光も特撮――特に怪獣映画が好きでゴジラのフィギュアを何体か持っている。
風間さんは何が好きなんだろうと思って横顔を覗くと夏海は後ろが気になってる様子だ。
「どうしたの風間さん、もしかして吹部の人たちに後をつけられてる?」
「ううん、吹部は練習だから……時々吹部じゃない誰かが私たちを見てるの、春菜ちゃんは気にするなって……」
夏海は落ち着きがなく時折振り向いてる。確かに振り向くと、誰かが後をつけてくるような気がする。
最初は気のせいかと思ったが、市電に乗ってる間や下通アーケードを歩いてる間にも、誰かが後をつけくるような気がして気味が悪い。
光は試しに春菜に訊いた。
「ねぇ桜木さん、さっきから僕たちの後をつけてくる人がいるようだけど」
「ああ……そうだった、ついてきて」
春菜は人通りの少ない下通アーケードの抜け道に入る。冬花も気付いたのか夏海に寄り添って後ろを警戒してる。
「大丈夫だよ夏海ちゃん……怖くないから、あたしたちが守るから」
こういう時、冬花は本当に強くて優しい子だ。すると望は少し考え込んだかと思ったら春菜に訊いた。
「桜木さん、この前もう一人の子を誘いたいって言ってたよね? もしかしてその子?」
「そうよ……さて、そろそろ隠れてないで出てきたら! マーク・フェルトさん!」
春菜はハッキリと突き抜ける声で呼び掛ける。マーク・フェルト? ウォーターゲート事件の内通者――ディープスロートの正体だった元FBI副長官のこと? 誰だろうと思いながら姿を見せたのは澄んだ声の女子生徒だった。
「初めまして春菜……私がマーク・フェルトよ」
春菜に比べてほっそりして背は低いがそれでも一六七センチくらいはある。
ショートポニーテールの黒髪に、切れ長で意志の強さが宿る凛々しい瞳に大人びた顔立ちで、アンニュイなクールビューティーという印象だが、不思議と近寄りがたいとは思わなかった。
「まさかあんただったなんてね……千秋」
春菜はまるで面倒な奴に出会っちまった、と言わんばかりに頭を抱えて望は訊いた。
「花崎さん? 確か桜木さんがテニス部を辞めた後、すぐ退部した」
「そうよ。春菜に感化されて退部した人たちの一人よ」
花崎千秋は無愛想に頷く、夏海は驚いた表情で千秋を見つめる。
「花崎さん、だったのね……クラスのみんなに知られたら大変じゃないの?」
「別に、私はただ春菜の手伝いをしてるだけよ」
千秋は不機嫌そうに腕を組んで言うと、光は夏海に訊いた。
「もしかして風間さんと同じクラス?」
「うん、でもまさかずっと私たちを見ていたの?」
夏海の問いに千秋は淡々とした口調で頷く。
「そうよ。朝霧君が風間さんの日記帳を返す時、場所を教えたのも私……風間さんに何かあればすぐ春菜に報せていたのよ」
「まさか千秋だったなんてね『ファンの一人だよ』っとか『お前のお姫様が危ないぞ』って散々かっこつけてたからね」
春菜はにやけながら言うと、千秋は黒歴史をバラされたのかムッと頬を赤らめて裏返った声になる。
「あ、あれは身バレを防ぐためだったのよ!」
すると冬花は無邪気な笑みで春菜に訊いた。
「春菜ちゃん、もしかして千秋ちゃんって結構面倒臭いタイプ?」
春菜は苦笑しながらハッキリ頷く。
「うん! テニス部で時々ダブルス組んでたけど素直じゃないし愛想悪いし、その癖一方的にライバル視するしかなり――」
「誰が面倒臭いよ!! 私だってテニス部辞めてからは居場所もない! 狭苦しい教室で悪い噂流される! 残った奴らから裏切り者呼ばわりされる……だから……その……つまり……」
千秋のアンニュイでクールビューティーな第一印象は既に無残にも音を立てて崩壊、最初は口調が荒かったのが次第に弱々しくなり、言葉が詰まる。
「だから……その……つまり……」
「つまり……なんだって?」
春菜がジト目になってその先を促すが、千秋は顔を赤くしてブルブル震えながら涙目で春菜に喚く。
「つまりそういうことなんだよ!!」
わかるかぁぁぁぁぁっ!! 確かに桜木さんの言う通り面倒臭い! 春菜は本当になのか、あるいはわざと知らない振りしてるのかわからない態度を見せる。
「ぜ~ん然わからな~い、あたしお馬鹿さんで空気読めないから~」
「あ・ん・た・ねぇ……」
千秋はブルブル震えて春菜を睨む、すると夏海が躊躇いながら歩み寄ってぎこちないが強さと優しさを秘めた声で尋ねた。
「花崎さん、私たちと……一緒になりたい?」
数秒間の長い沈黙が流れ、千秋は声を絞り出す。
「……そうよ」
「そ、それなら……私たちと一緒に……夏休みの終わり……彗星を見よう!」
夏海は精一杯の言葉を絞り出す、千秋は「えっ?」と夏海を見つめて彼女はゆっくりと慎重に言葉を選ぶかのように告げる。
「花崎さん……居場所がないって言ってたよね? この間まで私も同じだったの……それで朝霧君や春菜ちゃんたちが、みんなで一緒に居場所を作ろうって……だから……だから……一緒に……居場所を作って――」
夏海の最後の一言は凛とした声になる。
「――青春しよう!」
さっきまで吹部に怯えていた大人しくて気弱な女の子とは思えない、芯の通った声で光は確信した。
風間夏海は強い女の子だ。
光は思わず確信してその横顔を見とれて心を奪われた時、春菜は腹を抱えて爆笑した。
「ぷっ……ぷわあっはははははっはははは! なに夏海その台詞!! 超クサい!! 超ウケる!!」
「は、春菜ちゃん……笑わないでよ!」
夏海は今しがた見せた凛々しい表情は一瞬で消え、恥ずかしがり屋で内気な女の子に戻る。春菜は笑いすぎて苦しそうに呼吸を整え、両目から出た涙を拭き取る。
「ごめんごめん……でも今の聞いた千秋? 一緒に青春しよって」
「ちゃんと聞いたわよ春菜、あんた笑い過ぎ」
千秋は眉を顰めながらも、その眼差しは心を許したようにも見える。
「そうだよ春菜ちゃん、今の夏海ちゃん凄くかっこよかったよ! ねっ、千秋ちゃん!」
「うん、えっと……」
「あたし三組の雪水冬花、冬花でいいよ」
冬花は早速千秋に歩み寄り、自己紹介する。この様子だとすぐに仲良くなれそうだと光は思わず口許を緩めると、望はニヤけながら耳打ちする。
「光、風間さんのこと……好きになっただろ?」
確かに、あの芯の強い女の子として見せた表情が目に焼き付いて離れない、あれが夏海の本質なんだと確信したから否定はできない、それに望なら安心して頷く。
「うん……一目惚れだったと思う」
それで自分自身の恋心に気付く、あの時の屋上で僕は一目で恋に落ちたんだと。
「幸運を祈る……俺もできる限りのことはするよ」
「それはお互い様だろ望……雪水さんのこと」
光は思いきって踏み行ったことを言うと、望はゆっくり頷いた。
「うん……確かに君が察してる通り俺も冬花のこと好きだよ。でも俺には似合わないよ……俺は冬花の幼馴染みでしかない」
いつもの飄々とした表情は鳴りを潜め、今まで聞いたことないほど重苦しい口調になる。
「そんな……どうしてだ?」
「中学の頃かな? 俺が冬花に好きだって言ったけどどうなったと思う? 泣きながらわからない、どうすればいいのって……おろおろさせて傷付けてしまったんだ。冬花のことは大切だし好きだけど、もしそれでまた傷つけてしまったらと思うと……怖いんだ、本当の冬花は傷付きやすくて壊れやすいんだ」
「でも今日までたくさん僕や望のことを良くしてくれた、嫌いだったらあんなに笑ってくれないさ」
「そうだね、でも……またあんな風に傷付けてしまうかと思うと……怖いんだ」
傷ついてるのは望の方じゃないかと口を開こうとした時、冬花が呼びかけた。
「望君! 光君! 行こう!」
冬花は満面の笑みで大きく手を振りながら急かした、もし望がその笑顔は嘘だと言うのなら、光は間違いなく望の頬を引っ叩いただろう。
光にとって冬花も、安心して本音を話せる大切な友達だからだ。
仲間に入れてもらった千秋はようやく安堵の表情を見せる。
「お腹が空いたわ、早速みんなで何か食べましょう」
「そうそう、何か食べながら夏休みの計画を話そう!」
春菜は明日からの夏休みが楽しみで楽しみでしょうがない様子だ、すると夏海が恐る恐る提案した。
「それなら……良さそうなお店知ってるけど……みんな行ってみる?」
「賛成! 風間さん、どんなお店?」
望はノリノリで一票投じると光も思わず「僕も」と頷く、好きな女の子の行きつけのお店ってどんなのだろう? すると春菜は思い出したように言う。
「もしかしてあのお店? 前に話してた!」
「うん、銀座通りの紅茶屋さん」
夏海が少し照れ臭そうに頷くと行き先は決まった。
「はぁあああ……危なかった」
それを合図にみんなも緊張状態を解いて冬花は春菜に称賛の眼差しを向ける。
「でも春菜ちゃんかっこよかったよ、夏海ちゃんはあたしが守るって!」
「そうよ! あたしは正義のヒーロー! なんてね!」
春菜はポーズを決めてかっこつけ、望は言い当てる。
「桜木さんもしかして日曜朝の特撮とか見てるの?」
「うん、部活辞めて試しに見たら……嵌まっちゃってさ」
春菜はちょっと照れ臭そうに言うと日曜朝にやってる特撮ヒーローの話しに花を咲かせる。すっかり仲良くなっちゃって微笑ましい気持ちになり、光は思わず口許が緩む。
光も特撮――特に怪獣映画が好きでゴジラのフィギュアを何体か持っている。
風間さんは何が好きなんだろうと思って横顔を覗くと夏海は後ろが気になってる様子だ。
「どうしたの風間さん、もしかして吹部の人たちに後をつけられてる?」
「ううん、吹部は練習だから……時々吹部じゃない誰かが私たちを見てるの、春菜ちゃんは気にするなって……」
夏海は落ち着きがなく時折振り向いてる。確かに振り向くと、誰かが後をつけてくるような気がする。
最初は気のせいかと思ったが、市電に乗ってる間や下通アーケードを歩いてる間にも、誰かが後をつけくるような気がして気味が悪い。
光は試しに春菜に訊いた。
「ねぇ桜木さん、さっきから僕たちの後をつけてくる人がいるようだけど」
「ああ……そうだった、ついてきて」
春菜は人通りの少ない下通アーケードの抜け道に入る。冬花も気付いたのか夏海に寄り添って後ろを警戒してる。
「大丈夫だよ夏海ちゃん……怖くないから、あたしたちが守るから」
こういう時、冬花は本当に強くて優しい子だ。すると望は少し考え込んだかと思ったら春菜に訊いた。
「桜木さん、この前もう一人の子を誘いたいって言ってたよね? もしかしてその子?」
「そうよ……さて、そろそろ隠れてないで出てきたら! マーク・フェルトさん!」
春菜はハッキリと突き抜ける声で呼び掛ける。マーク・フェルト? ウォーターゲート事件の内通者――ディープスロートの正体だった元FBI副長官のこと? 誰だろうと思いながら姿を見せたのは澄んだ声の女子生徒だった。
「初めまして春菜……私がマーク・フェルトよ」
春菜に比べてほっそりして背は低いがそれでも一六七センチくらいはある。
ショートポニーテールの黒髪に、切れ長で意志の強さが宿る凛々しい瞳に大人びた顔立ちで、アンニュイなクールビューティーという印象だが、不思議と近寄りがたいとは思わなかった。
「まさかあんただったなんてね……千秋」
春菜はまるで面倒な奴に出会っちまった、と言わんばかりに頭を抱えて望は訊いた。
「花崎さん? 確か桜木さんがテニス部を辞めた後、すぐ退部した」
「そうよ。春菜に感化されて退部した人たちの一人よ」
花崎千秋は無愛想に頷く、夏海は驚いた表情で千秋を見つめる。
「花崎さん、だったのね……クラスのみんなに知られたら大変じゃないの?」
「別に、私はただ春菜の手伝いをしてるだけよ」
千秋は不機嫌そうに腕を組んで言うと、光は夏海に訊いた。
「もしかして風間さんと同じクラス?」
「うん、でもまさかずっと私たちを見ていたの?」
夏海の問いに千秋は淡々とした口調で頷く。
「そうよ。朝霧君が風間さんの日記帳を返す時、場所を教えたのも私……風間さんに何かあればすぐ春菜に報せていたのよ」
「まさか千秋だったなんてね『ファンの一人だよ』っとか『お前のお姫様が危ないぞ』って散々かっこつけてたからね」
春菜はにやけながら言うと、千秋は黒歴史をバラされたのかムッと頬を赤らめて裏返った声になる。
「あ、あれは身バレを防ぐためだったのよ!」
すると冬花は無邪気な笑みで春菜に訊いた。
「春菜ちゃん、もしかして千秋ちゃんって結構面倒臭いタイプ?」
春菜は苦笑しながらハッキリ頷く。
「うん! テニス部で時々ダブルス組んでたけど素直じゃないし愛想悪いし、その癖一方的にライバル視するしかなり――」
「誰が面倒臭いよ!! 私だってテニス部辞めてからは居場所もない! 狭苦しい教室で悪い噂流される! 残った奴らから裏切り者呼ばわりされる……だから……その……つまり……」
千秋のアンニュイでクールビューティーな第一印象は既に無残にも音を立てて崩壊、最初は口調が荒かったのが次第に弱々しくなり、言葉が詰まる。
「だから……その……つまり……」
「つまり……なんだって?」
春菜がジト目になってその先を促すが、千秋は顔を赤くしてブルブル震えながら涙目で春菜に喚く。
「つまりそういうことなんだよ!!」
わかるかぁぁぁぁぁっ!! 確かに桜木さんの言う通り面倒臭い! 春菜は本当になのか、あるいはわざと知らない振りしてるのかわからない態度を見せる。
「ぜ~ん然わからな~い、あたしお馬鹿さんで空気読めないから~」
「あ・ん・た・ねぇ……」
千秋はブルブル震えて春菜を睨む、すると夏海が躊躇いながら歩み寄ってぎこちないが強さと優しさを秘めた声で尋ねた。
「花崎さん、私たちと……一緒になりたい?」
数秒間の長い沈黙が流れ、千秋は声を絞り出す。
「……そうよ」
「そ、それなら……私たちと一緒に……夏休みの終わり……彗星を見よう!」
夏海は精一杯の言葉を絞り出す、千秋は「えっ?」と夏海を見つめて彼女はゆっくりと慎重に言葉を選ぶかのように告げる。
「花崎さん……居場所がないって言ってたよね? この間まで私も同じだったの……それで朝霧君や春菜ちゃんたちが、みんなで一緒に居場所を作ろうって……だから……だから……一緒に……居場所を作って――」
夏海の最後の一言は凛とした声になる。
「――青春しよう!」
さっきまで吹部に怯えていた大人しくて気弱な女の子とは思えない、芯の通った声で光は確信した。
風間夏海は強い女の子だ。
光は思わず確信してその横顔を見とれて心を奪われた時、春菜は腹を抱えて爆笑した。
「ぷっ……ぷわあっはははははっはははは! なに夏海その台詞!! 超クサい!! 超ウケる!!」
「は、春菜ちゃん……笑わないでよ!」
夏海は今しがた見せた凛々しい表情は一瞬で消え、恥ずかしがり屋で内気な女の子に戻る。春菜は笑いすぎて苦しそうに呼吸を整え、両目から出た涙を拭き取る。
「ごめんごめん……でも今の聞いた千秋? 一緒に青春しよって」
「ちゃんと聞いたわよ春菜、あんた笑い過ぎ」
千秋は眉を顰めながらも、その眼差しは心を許したようにも見える。
「そうだよ春菜ちゃん、今の夏海ちゃん凄くかっこよかったよ! ねっ、千秋ちゃん!」
「うん、えっと……」
「あたし三組の雪水冬花、冬花でいいよ」
冬花は早速千秋に歩み寄り、自己紹介する。この様子だとすぐに仲良くなれそうだと光は思わず口許を緩めると、望はニヤけながら耳打ちする。
「光、風間さんのこと……好きになっただろ?」
確かに、あの芯の強い女の子として見せた表情が目に焼き付いて離れない、あれが夏海の本質なんだと確信したから否定はできない、それに望なら安心して頷く。
「うん……一目惚れだったと思う」
それで自分自身の恋心に気付く、あの時の屋上で僕は一目で恋に落ちたんだと。
「幸運を祈る……俺もできる限りのことはするよ」
「それはお互い様だろ望……雪水さんのこと」
光は思いきって踏み行ったことを言うと、望はゆっくり頷いた。
「うん……確かに君が察してる通り俺も冬花のこと好きだよ。でも俺には似合わないよ……俺は冬花の幼馴染みでしかない」
いつもの飄々とした表情は鳴りを潜め、今まで聞いたことないほど重苦しい口調になる。
「そんな……どうしてだ?」
「中学の頃かな? 俺が冬花に好きだって言ったけどどうなったと思う? 泣きながらわからない、どうすればいいのって……おろおろさせて傷付けてしまったんだ。冬花のことは大切だし好きだけど、もしそれでまた傷つけてしまったらと思うと……怖いんだ、本当の冬花は傷付きやすくて壊れやすいんだ」
「でも今日までたくさん僕や望のことを良くしてくれた、嫌いだったらあんなに笑ってくれないさ」
「そうだね、でも……またあんな風に傷付けてしまうかと思うと……怖いんだ」
傷ついてるのは望の方じゃないかと口を開こうとした時、冬花が呼びかけた。
「望君! 光君! 行こう!」
冬花は満面の笑みで大きく手を振りながら急かした、もし望がその笑顔は嘘だと言うのなら、光は間違いなく望の頬を引っ叩いただろう。
光にとって冬花も、安心して本音を話せる大切な友達だからだ。
仲間に入れてもらった千秋はようやく安堵の表情を見せる。
「お腹が空いたわ、早速みんなで何か食べましょう」
「そうそう、何か食べながら夏休みの計画を話そう!」
春菜は明日からの夏休みが楽しみで楽しみでしょうがない様子だ、すると夏海が恐る恐る提案した。
「それなら……良さそうなお店知ってるけど……みんな行ってみる?」
「賛成! 風間さん、どんなお店?」
望はノリノリで一票投じると光も思わず「僕も」と頷く、好きな女の子の行きつけのお店ってどんなのだろう? すると春菜は思い出したように言う。
「もしかしてあのお店? 前に話してた!」
「うん、銀座通りの紅茶屋さん」
夏海が少し照れ臭そうに頷くと行き先は決まった。