昨日の夕方――一月十六日夕方十六時頃、市街地から離れたネジの製作所の敷地内で、倉庫の鍵が壊されていることに気付いた作業員が中に入ると、機械の間で倒れている女性の遺体を発見した。

 女性は市街地にオフィスを構える『建設会社さくなみ』で働くデザイナー、旗本(はたもと)礼子(れいこ)。先日四十歳を迎えたばかりの独身だった。白のアクリルセーターにベージュのワイドパンツ、黒のコートといったオフィスカジュアルの装いだったが、長年放置していた倉庫の埃が薄っすら積もっていた。
 解剖の結果、死亡推定時刻は三日前――十三日の夜二十一時から二十三時の間とされ、死因は後ろからタオルのようなもので首を絞められたことによる窒息死と断定された。その他、左の人差し指に切り傷と、右腕は脱臼していたという。
 
 なお、その間の従業員の立ち入りは一切なかった。というのも、倉庫から製作所まではまず道路を越えなければならない。この倉庫は以前、ネジの製作所として使用していたが、生産量と増員の関係で増築を考えた際、広い場所が必要となった。そのため、今まで使っていたこの場所は倉庫として残し、古い機械や滅多に使わない材料を保管している。倉庫の鍵は製作所の事務所で保管しており、ここ数日間の貸し出しはなかったいう。
 さらに、旗本が勤務する建設会社との間に取引はなく、被害者を知る人物は誰一人いなかった。