事実を告げてシグマがケラケラと笑う中、野間係長と早瀬は呆気をとられた顔をした。たかが数字ごときでこれほど振り回されるとは、随分呆れたものだ。二人の顔色を見て察したのか、真崎も苦笑いを浮かべる。

「本人も知らなかったとはいえ、さすがに腑に落ちないと言いますか……」
「ああ、今後の捜査方針を考えてしまう」
「ただ、人を殺したとバレるリスクがあっても警察に被害届を出しに来たということは、あのマフラーは五嶋さんにとってとても大切なものだった、ということです」
「不器用なコンビ、お粗末様ってな。……ってことで事件解決っ! 行くぞ、マサキ」
「ちょ、勝手に終わらせるな! すみません、失礼します」

 シグマと真崎が嵐のように出て行くと、応接室は途端に静まり返った。すると、ドアを見つめたまま、野間が耐え切れずに噴き出して笑い始めた。

「いやぁ、やはりあの二人は良い。上手くかみ合っているようで何よりだ」
「確かにそうかもしれませんが、未だに納得できません」

 早瀬はいかにも不機嫌そうな顔をして野間を見る。

「未成年ながらもいくつもの企業を潰してきた大泥棒(・・・)と、会社倒産へ追い込んだ記憶喪失の要注意人物(・・・・・)。いくら監視下とはいえ、犯罪者を放ったらかしにするなんて」
「まぁまぁ。でも彼らはこちらが頼まずとも事件を解決した。これからもそれは変わらない」
「係長!」
「……ただ、厄介な存在には変わりはないだろうね」

 野間が遠い目をして言うと、そのまま席を立って出て行った。
 早瀬はふと窓の外の駐車場で楽しそうに話している二人に目を向ける。警察官として、犯罪者が平気で出歩いている現状を許せるはずがない。しかし、今回の事件も含め、彼らの力がなければ解決できなかったかもしれないと考えが()ぎると、なんとも歯痒い思いだった。
 犯罪者なんて。――と思った矢先、シグマがこちらを見ていることに気付いた。紺色のニット帽に隠れた白髪の前髪を直しながら、ニヤリと笑みを浮かべ、何か言っている。

『利用できた?』

 ――なんだ、全部最初から彼らはわかっていたんじゃないか。
 それを気付いた早瀬はやられたと、大きな溜息を吐いた。

【噂の(厄介な)探偵】〈了〉