建築デザイナー殺人事件、ひったくり事件を解決した数日後、シグマと真崎は警察署の応接室を訪れ、野間係長と早瀬を前に悪戯な笑みを浮かべた。

「この度は当探偵事務所にご依頼いただき、誠にありがとうございました」
()してくれ、マサキ。胸くそ悪い」
「あれ? 早瀬さん随分顔色が悪そうだねぇ? また板挟みにされてる感じ?」
「誰のせいだろうな?」
「止めないか、早瀬。君の立場は私も申し訳ないと思っている。他には言い聞かせておくから」
「ご心配なく。シグマの口の利き方に問題があるだけです」
「俺ちゃーんと働いたし? あ、ちゃんと給料払ってくれるよね?」

 いつになく満面の笑みを浮かべたシグマに、野間係長と早瀬は同時に大きな溜息を吐いた。勿論、今日二人をここに呼んだのには給料以外にも話があったからだ。

「五嶋若菜が犯行を自供した。権藤も含めて書類送検済みだ。二人の犯罪者を確保するにあたり、ご協力感謝する。ただ一つ、ずっと気になっていることがあるんだが……」
「ん? なになに?」
「数字だよ。機械に書かれていたのは、五嶋はただ権藤の名字を数字に変換しただけと言っていたが、結局旗本のカレンダーに書いてあった数字はなんだったんだ?」
「だから、デザイン部のメンバーの数字だよ。省略して書いたって言ったじゃん」
「じゃあ五嶋は知らずに書いたのか?」
「ええ。ただ、あの数字は権藤ではないですね」

 真崎はそう言って、旗本のデスクに置かれていたカレンダーを撮った画像を表示してある日付に書かれた数字を指さした。捜査会議で挙げられていた数字以外に、『46』と書かれたものがあった。

「権藤の下の名前は史郎……『46』が当てはまります。ちなみに販売部に逸見という人物がいて、その人と打ち合わせがあったみたいです。『123』なんて覚えやすいけど、五嶋さんと被ってしまう。だから『510』は五嶋さんのことです」
「……おい、まさか……」
「そう。殺人犯は知らずに自分の名前を現場に書き残してたってこと。ざまぁ!」