協力することで話がまとまった早瀬と若菜は、さっそく探偵のもとに向かうことにした。
 事前に早瀬から連絡し、指定された場所へ車を三十分ほど走らせ、町の大通りから小道に入る。ひっそりと佇む喫茶店『サフラン』――コンクリートの建物ばかりが並ぶこの場所で、レンガ造りの家は目立ちながらも異様な雰囲気を漂わせていた。
 恐る恐る中に入ると、店内はレトロな造りにコーヒーと煙草の香りが漂っており、若菜がぜひ休日に一人で読み溜めていた本を持って訪れたいと思うほど、優雅で落ち着いた空間で満ちていた。
 すると、カウンターに座っていた男性と目が合う。水色のワイシャツに黒のスラックス、使い込まれた革靴といったシンプルな恰好は、喫茶店の店員にしては若干違和感があった。どちらかといえばスーツを着て歩き回る営業マンが似合うかもしれない。そう思わせるのは、おそらく背筋がピンと伸びた姿勢からだろう。
 そんなことを考えていると、男性は席を立って二人の前にやってきた。

「お話は伺っております。こちらにどうぞ」

 男性は笑みを浮かべて席へと案内する。特にパーテーションで囲まれているわけでもなく、震える手を押さえながらホットココアを飲む老人が座っているソファー席の隣に通されると、若菜は早瀬の袖口を掴んだ。

「早瀬さん、本当にここに探偵が居るんですか?」
「勿論です。とりあえず何か頼みましょうか」

 早瀬はそう言って、立てかけてあるメニュー表を見せて何が良いかと聞いてくる。この刑事は頭がおかしいのか。若菜は落ち着かない様子であたりを見回した。探偵らしき人物がどういった格好をしているかはさておき、店内にいるのは隣に座る老人一人だけ。いくら雰囲気がよく、プライベートでまた訪れたいと思っていても、他人を巻き込んでまでするような話の内容ではない。

「そんなにそわそわしていても、彼は出てきませんよ」
「私は探偵が相談を受けてくれるって言うから来たんです。それなのにここには探偵事務所の看板もなければ表札もない、ただの喫茶店じゃないですか。早瀬さんのいうその探偵は、ちゃんと仕事をしてくれるんですよね?」

「――じゃあ、試してみる?」