「はい、これなーに?」
「な、なんで金庫の暗証番号を……!?」
「不規則な暗証番号を三つ用意して、三ヵ月に一回の頻度で番号を変えるのが、アンタのやり方。六年前から数えてこの時期に使っている番号を入れただけだったけど、六年前の空き巣被害に遭った時と同じ番号をまだ使ってたんだね。ちょー簡単だった」
「空き巣……」
「どっかで会ったことがあると思ったんだよねー。覚えてない? この金庫に入っていた高級ブランドの腕時計を全部盗んだ(・・・・・)の、俺だよ」

 権藤は驚いて声も出なかった。六年前の空き巣被害は犯人の手がかりがなく、未解決として処理されてしまっていた。まさか真犯人が警察を味方につけて現れ、堂々と「自分が盗んだ」と嘲笑うなど、誰が想像できただろうか。目の前にいるシグマの満面の笑みは、今の権藤にとって悪魔の笑みにしか見えなかった。真っ青な顔をした彼の前に、早瀬が眼鏡のレンズの鑑識結果を差し出す。

「製作所近辺で窃盗事件が多発しています。あなたの自宅から製作所まで徒歩十分圏内。この近辺にある防犯カメラで、事件当日にあなたによく似た人物が犯行時刻に出歩ている姿が記録されていました。加えて旗本礼子さんの遺体の近くに散らばっていた眼鏡のレンズに付着していた指紋が、あなたの指紋と一致しています。話を聞かないわけにはいきません。署までご同行願います」
「……ま、待ってくれ! 確かに夜道を歩いてる女の金を奪った! でも僕は人を、旗本を殺してなんかいない!」
「ああ、そこに関しては心配しなくていいよ」

 必死に殺害に関与していないと訴える権藤に、シグマは彼の肩を押さえて覗き込むようにして見る。
浮かべた笑みは、先程と打って変わって清々しいものだった。

「アンタは窃盗犯として逮捕される、それは確定してんだからしっかり話してこい。……ってことで早瀬さん、連行っ!」
「わかってる。シグマはどうする? マサキのところに行くか?」
「コレと一緒にいくよ」

 まだ探してるはずだからさ。――その一言ですべてを悟ったのか、権藤はその場に膝から崩れ落ちていった。