翌日、権藤史郎は自宅で朝食を済ませると、次の案件に向けてデザイン案をまとめていた。今日はリモートワークすることも伝えているため、余計な電話がかかってくることはない。
 デザイン案がかたまってきたところでインターホンが鳴った。行ってみると、昨日会社に探偵を連れてやってきた早瀬という刑事が立っていた。権藤が玄関を開けると、なぜか外には段ボールを持った刑事が数名待機している。
 これは一体何事だ?

「権藤史郎さん、これより家宅捜索させていただきます。こちらが令状です。……始めてください」
「え? ちょ、ちょっと!」

 早瀬の一声を皮切りに、権藤を置き去りにしてぞろぞろと部屋へ入ってくる。その後ろからシグマが先頭にいる刑事に向かって言う。

「調べるのは仕事部屋な。押し入れの下に金庫があるから」
「なぁ!?」
「ありました!」

 シグマに背中を押され、権藤が先程までいた仕事部屋に行くと、押し入れから八桁の暗証番号を入力するタイプの金庫が引きずり出されていた。
 家宅捜索だか何だか知らないが、なんの説明もなく金庫を出されるなんて、まるで強盗のやり方ではないか!

「あ、あなたたちは何をやっているんだ! 警察がこんなことをして……」
「それはアンタが金庫を開けてくれたらわかることなんだよなぁ……騙されたと思って開けてくんない?」
「ふざけるな! さっさと出ていってくれ!」
「……あ、そう。じゃあいいや」

 頑なに拒む権藤を前にしてシグマは大きな溜息を吐くと、金庫の前にしゃがんで慣れた手つきで番号を押していく。八つ目の番号を押すと同時に鍵が開いた音が鳴ると、金庫の取っ手を掴んで扉を開く。
 中から出てきた黒いキャップと革の手袋、果物ナイフ、そしてビニール袋に入れられたタータンチェック柄のマフラーを、シグマは彼の前に突き出した。