真崎の推理を論破されたところで、会議室の外で躊躇っていた鑑識がシグマの一声でようやく入ってきた。鑑識結果と現場に落ちていた眼鏡の破片を持って野間――ではなく、シグマの前に来ると、震えた声で言う。

「シグマさんの言う通り、復元したレンズから指紋が検出され、ご指摘いただいたリストに載っていた人物と一致しました……」
「やっぱり? だと思ったんだ」

 ケラケラと笑うシグマと鑑識だけで行われている会話に入っていけない。いつの間に鑑識に指示を出していたのだろうか。
 真崎は鑑識結果を覗き込んで確認すると、そこには破片を集めて修復したレンズの縁に親指くらいの大きさの指紋がハッキリと映っている画像が載っていた。
 それを見た瞬間、ある一説が真崎の頭を()ぎると、思わず「ああっ!?」と声を上げた。すべてわかっていたであろうシグマの方を見れば、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている。

「そういうことか、それじゃあ犯人は……」
「分かった? とりあえず今日は終わりな。マサキ、事務所戻るぞ」
「お、おい、お前らだけで納得するな! 詳しく説明をしろ!」

 颯爽と会議室から出ていこうとするシグマを、早瀬が必死に止める。他の刑事は立ち上がってシグマに「手柄欲しさに逃げんじゃねぇ!」「探偵モドキが!」と次々に野次を飛ばしていく。少なくとも、それが負け惜しみではなく、犯人を特定するための情報を提供してほしいだけだと、二人はわかっているつもりだ。

「しょうがねぇな……明日の朝一で行くから令状用意しといてよ。ただし――二件分(・・・)な」