真崎が書き終えると、思わず納得の溜息を漏らすのが微かに聞こえた。しかし、野間とシグマだけはボードを見たまま動かなかった。

「おそらく被害者が会っていたのは『510』……権藤史郎さんです」

 決まった。――真崎は犯人の名前を口にして、気持ちが軽くなるのを感じた。
 旗本の死亡推定時刻である二十一時から二十三時の間、権藤にはアリバイがない。最重要参考人として署へ任意同行し、詳しく話を聞くべきだと、その場にいた多くの人物が直感した。――彼を除いては。

「惜しいなぁ、マサキ。半分までは合ってたのに」

 ゆらりと顔だけを真崎の方へ向けたシグマは、ペン先でボードを叩く。

「カレンダーの数字の謎はそれでほぼ確定と言ってもいい。ただ、漢数字だけを見れば『五嶋』も範疇じゃね?」
「それは……」
「現に依頼人のおねーさんは午前中に被害者と打ち合わせをしている。マサキの言う自分ルールに、【一日の最初に行う予定を最初に書く】ことをしていたら、『510』は権藤ではなく、午前中に打ち合わせをしていた五嶋である可能性が高い。カレンダーにはまだ当てはまっていない数字が残ってる。穴だらけの推理で安心してんじゃねーよ。よくそれで断定できたな」
「うっ……」
「はい残念でしたー。この推理に納得しちゃった人、全員もっと頑張りましょうーってことで。さっさと入ってこいよ、鑑識の人」