続いて、被害者の足取りから容疑者に近しい人物として、『建設会社さくなみ』のデザイン部に所属する五人が挙げられた。

 権藤史郎は社内で旗本と打ち合わせ後、帰宅して十六時に配達業者から荷物を受け取っており、業者からも確認が取れた。しかし、それ以降のアリバイを証明できる人物はいない。
 大学が終わってすぐ会社に来た江川ニナは、会社から自宅までの間にあるコンビニの防犯カメラで買い物をしている姿を確認したものの、それ以降はわからずじまい。
 しかし、夜中まで飲み歩いていたという市原始と三津谷朝子は目撃者が多かったことと、最後に会社を出たあとにひったくり犯と遭遇し、怪我を負った五嶋若菜には犯行が不可能だと、現段階で判断した。

「さて……シグマ、何か言いたげな顔をしているね」
「……あれ? それ俺に聞く?」

 デスクに突っ伏して膨れっ面をしていたシグマを見かねて、野間から声をかける。
 周りの刑事が眉間にまた一段と深く皺を作ると、真崎は気まずそうに目を逸らした。なんてアウェイな空気。しかし、怖いもの知らずのシグマは不敵に鼻で嗤った。

「そんな怖い顔すんなよ、刑事さん達。ところで遺留品見つけた人、バッグの中にスケジュール帳ってなかった?」
「え……ああ、はい。ありますけど……川の水に浸っていたので読める部分が少なくて……」
「それでいいから現物ちょーだい?」

 手の平をひらひらと動かして催促すると、「自分で取りに来い!」と他の刑事から野次が飛ぶ。面倒くさそうにシグマが席を立って出された遺留品の前に行く。B5サイズのスケジュール帳の一月のページを開くと、ボールペンでびっしり書かれた予定のほとんどが滲んでしまっていた。手帳の上半分は水から逃れられたのか、一月の前半部分は辛うじて読むことができた。
 
「マサキ、これどう思う?」
「え!? えーっと……あれ?」

 シグマに呼ばれて真崎も遺留品の前に行き、同じように一月のページを見た途端、自分のスマートフォンで撮影した、旗本のデスク脇に置かれたカレンダーと照らし合わせてみると、同じ日に数字が書き込まれていた。

「社員はこの数字のことを誰も知らなかった。一日の予定はびっしりだとは聞いていたけど……やっぱりスケジュール帳には詳しく書かれてる」
「……ちょっと待て、やっぱりってどういうことだ?」

 なぜかホッと胸を撫で下ろした真崎を見て、共にオフィスで事情聴取を聞いていた刑事が問う。すると真崎は、会議室にいる全員が見えるように、ボードの空いているスペースにスケジュール帳とカレンダーに書かれた日付と数字を書き写していく。