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 三日前――一月十四日。この日、若菜はカフェで打ち合わせを終えた後、会社に戻って仕事をしていた。思った以上に作業が終わらず、定時を越えた夜の二十一時に会社を出ることになった。しかし、その帰宅途中にひったくり犯に遭遇してしまったのだ。暗い夜道で、ナイフを構える男から逃れようと、無我夢中で自宅のある方へ走った。なんとか無事に自宅に着いたものの、恐ろしくて眠れずに朝を迎える。震えは止まらず、外に出ることが億劫になった若菜は、逃げる直前まで身に着けていたマフラーが無くなっていたことに気付いた。襲われた時の恐怖が身体から離れず、その日はずっとベッドの上にいた。

 二日ほどしてようやく落ち着いたところで警察署に出向き、今に至る。
 先程の警察官は鼻で哂って諦めろとまで言っていたのに、早瀬だけは頑なに譲らなかった。若菜が困った顔をしていると、早瀬は立ち上がって深く頭を下げた。

「ちょっ……刑事さん!?」
「お願いします。これ以上、被害者を出したくないんです」

 いくら頭を上げろと頼んでも、早瀬は「了承を得るまでは」と言って頭を下げ続ける。そのまま帰ることも憚られ、若菜は結局頷くことしかできなかった。