若菜が自宅に帰す頃には既に日が落ち始めていた。真崎はそのまま、今回のデザイナー殺人事件の捜査本部が設置された警察署に向かう。緊張しながらも会議室のドアを開けると、中には多くの刑事が集まっていた。
 捜査情報が掛かれたホワイトボードの前には、既にシグマが独占して噛り付くように見ている。その姿を見て、多くの刑事がげんなりとした顔をしていた。彼らはいかにシグマが厄介者であるかを知っているため、またかと頭を抱える刑事も少なくはない。
 すると、今回の捜査の指揮を執っている指揮官――野間(のま)大輔(だいすけ)係長が入ってきた。五十代後半ながらもがっしりとした体格で、深い顔彫りが印象強い彼は、早瀬の直属の上司でシグマのお守りを指示した人物でもある。彼が入ってきたことで空気ががらりと変わり、情報交換をしていた刑事たちが全員、姿勢を正して出迎える。野間は彼らに楽にするように言うと、シグマの方へ向かう。

「やぁ、シグマ。元気かい?」
「この状況でよくそんな呑気なこと言ってられんな、野間のオッサン」
「貴様っ! 係長になんて口の利き方を!」
「いいよ。最近すれ違いが多かったからね。真崎くんも元気かい?」
「そこにいるから直接聞けば? マサキ、さっさとこっち来いよ」

 ボードを見たまま、シグマは会議室の後ろであたふたしていた真崎に声をかける。一度も真崎の方を向いてないというのにも関わらず気付いたのを見て、多くの刑事が真崎の方へ目を向ける。それを掻い潜るようにして、真崎は先に彼らの方へ小走りで向かった。

「あのおねーさんは?」
「関係者だから自宅に送ってきた。これ以上連れ回すわけにはいかないだろう」
「妥当だな。事情聴取、どうだった?」
「……これから報告するから、とりあえず席に着こうか」

 ここで無駄話を始めてしまえば、後ろでこちらを睨みつけている刑事に刺されてしまう。真崎がシグマを引きずるようにして後ろの席に座らせると、いよいよ捜査会議が始まった。