内緒ですよ?と脅すように笑みを浮かべると、二人の顔色はサッと血の気が引いて、大人しく仕事に戻った。真崎も見落としがないから確認するも、やはりカレンダーが気になって仕方がない。
 そこへ、後ろで見ていた若菜が恐る恐る彼に問う。

「真崎さん。こんな時に聞くのもどうかと思いますが、さっきの刑事さんが言ってた『探偵モドキ』って……?」
「ああ……よく言われるんです。本当のことなので言い返せないんですけど」
「悔しくないんですか?」
「事実ですし。シグマは気にしていないから、言い返した方が負けみたいなモンですよ」
「でも……!」
「シグマは自分の置かれている状況がわかっているつもりです。探偵業が高校生から良しとされていても、未成年が事務所を構えることはできない。加えて警察が関わる凶悪犯罪に足を突っ込んでいる。……これだけ特別扱いされるのは、警察にとってシグマはそれほど注目していて、脅威なんです」

 若菜の問いかけに、真崎は視線を外して答える。その横顔から、これ以上踏み込んではいけないと悟る。それを察したのか、真崎は小さく笑った。

「――なんてね。嘘ですよ。ただ、今までシグマが沢山事件に首を突っ込んでいるから、警察も諦めたんです。だから早瀬さんのお守りがついているんですよ」
「そう……そうなんですね」
「ええ。答えになりましたか?」
「えっと……じゃあ、もう一つ。どうしてシグマさんと一緒に探偵をしているんですか?」

 初めて喫茶店で出会った時から、若菜は真崎に疑問を抱いていた。ピンと背筋を伸ばした美しい姿勢や立ち振る舞いから、探偵どころか喫茶店の店員さえとても似合わない印象があった。どちらかと言えば、走り回る営業マンの方が向いている気がして、それでもこんな突飛な職についている彼の存在が違和感でしかないのだ。

「どうして、と言われても……俺はシグマに拾われた身でしたから」

 嘲笑うように、真崎は口を開いた。

「アイツは記憶がない俺を『相棒』として迎え入れてくれたんです。覚えてもいない俺を、アイツが救ってくれた。理由はそれだけで充分です」
「ま、待ってください。今記憶がないって……?」

 驚いた表情の若菜に、真崎は「ああ、そういえば」とおどけると、どこか恥ずかしそうに笑いながら言った。

「記憶喪失なんですよ、俺。最初は自分の名前さえもわかりませんでした」