興奮気味の市原を追い出して、今度は江川ニナに話を聞くことにした。最年少の二十二歳の大学生で、アルバイトとして勤務している彼女は、旗本との関わりは他の社員と比べて少ないという。旗本が殺されたと話を聞いた時は泣き崩れていたが、すっかり涙は消えてどこかすっきりした表情をしていた。

「確かにデザインの話で旗本さんと揉めたし怒られましたけど、私そんなに融通の利かない人間じゃないですー」
「旗本さんのこと、どう思ってました?」
「それって誘導尋問ですか?」
「いいえ、被害者について知る情報の一つとして伺っています」
「……あのオバサン、私のデザインにケチばっかりつけてきたの。それで何度か衝突したんです。少しくらい残してくれたっていいのに、全部直せって酷くないですか? でもそれで商品が成り立ってたんだからいっかぁ、なんて。ここに就職する気ないし?」
「それじゃ、どうしてここでアルバイトを?」
「だって時給が良いんだもん。いい人ばっかりだし。……オバサン以外は」
「ところで、権藤さんと何かこっそり話していたという話を耳にしたのですが」
「確かに時給が安いしオバサンの相手は嫌だって言ったことはありますけど、噂になるようなことはしてないですよー? 権藤さん、若い子好きだから贔屓してくれるんですよ。私とか若菜さんとか。だからうまいことオバサンに言ってくれないかなーって思って話しました」
「わかりました。それでは三日前の二十一時から二十三時の間、どこで何をしていましたか?」
「んーと、十五時に大学終わってからここで仕事して、定時の十九時には出ましたよ。真っ直ぐ家に帰って寝たから、アリバイはある!」
「それを証明してくれる人は?」
「一人暮らしにそれは難しいって! もしかして疑っちゃってる? マジで? ウケるんだけど!」

 ケラケラと笑う江川に、刑事と真崎は顔色を変えなかった。それを見た江川が引きつった顔で「え、冗談じゃないの?」と聞いてきた途端、二人は顔を見合わせて溜息をついた。