シグマと早瀬が現場に着いた同時刻、『建設会社さくなみ』では社員の事情聴取が行われていた。
 早瀬の計らいで真崎もその場に同席することになり、亡くなった旗本礼子について、一人ずつ話を聞くことになった。
 
「旗本はデザイン部内でも凄腕で、来週行われる会議で役員に推薦する予定だったんですよ。それがこんなことになってしまうなんて……まさか、殺されるなんて」

 と、悔しい思いを口にしたのは、六人の小さな部署をまとめている部長の権藤(ごんとう)史郎(しろう)だった。旗本とは同期で、長年ともに苦労してきた仲だったという。

「確かに彼女は当たりが強い。自分のデザインに納得しない相手が居れば、何時間でもその魅力について説明するほど自分勝手でした。ただ熱意は誰よりもあった。仕事をする上で、彼女が味方で良かったと何度も思いました」
「旗本さんは三日前に何者かに殺害されています。彼女から連絡がなかったことに対して、不思議に思いませんでしたか?」
「いえ。実は彼女、事前にこの三日間、三連休を取っていたんですよ。特別な用事があったわけでは無いようでしたが、有休が溜まっていたので気分転換をすると言っていました」
「連休中に仕事の連絡は?」
「それはないでしょう。彼女は仕事とプライベートはしっかり分けるタイプです。誰かが連絡したとしたら、その時点で会社に電話がかかってきて雷を落としていくので。極力連絡しないようにしています」
「事件当日の夜、二十一時から二十三時の間は何をしていましたか?」
「アリバイってやつですね? 家にいましたよ。僕はその日、十四時に旗本と次の案件について打ち合わせをした後、すぐ自宅へ帰りました。十六時に新しいデスクトップの配達を依頼していましてね。届いた後は仕事を進めて……二十一時半までやっていたかな。その後は特にすることなく、風呂に入って寝ていましたよ。恥ずかしながら四十五になっても独身でね、家には僕以外誰もいませんでした」
「つまり、証明できる人はいないと?」

 そうなりますね、権藤はヘラっと笑った。どこか警察を軽んじてみられているような気がして、聴取をしていた刑事が苛立って睨みつけると真崎が抑えこんだ。