“SIΩ”

 重機の型番にしては見づらい場所に書かれており、誰かの悪戯にしてはまだ新しい。

「早瀬……んがっ!?」

 早瀬に知らせようと立ち上がると、勢いで突起部分に頭をぶつけた。鈍い衝撃が反響し、頭を抱えてしゃがみこんでいると、丁度電話をしていた早瀬に鼻で哂われた。

「最悪……今度から絶対工場でしゃがまない」
「なんの決意だよ……近隣の聞き込みに行くから来てくれ」
「へいへーい」

 引きずられるようにして倉庫を後にする。シグマはスマートフォンで撮った、機械に書かれたあの文字をじっと見つめた。

「鑑識からの追加情報だが……それは?」
「当然、これのことも調べてるでしょ?」
「ああ、多分このことかな」

 鑑識からの連絡によると、倉庫内の機械や被害者の衣類に付着していた血痕は被害者のものと一致したという。シグマが目を付けた謎の文字を書いたのは本人である可能性が高くなった。
 画像に写っていた破片は眼鏡のレンズで、ブルーライトカットが入った眼鏡であることが分かった。しかし、度数の調整が不要な量産品のため、購入者を特定することは困難だという。加えて、被害者の左の人差し指の傷口の中に、微量ながらレンズの破片が見つかった。
 また、被害者の首元には羊毛の繊維が付着していたことも分かった。警察ではストールのようなもので首を絞めたのではと推測し、現場近辺の捜索を進めている。

「右腕は脱臼してたんだっけ。だから左手で書き残した……そんなうまい話ある?」

 シグマはそう言って、またスマートフォンで撮った先程の文字を見つめる。時折、なぞるように指を動かし、画面を拡大してみれば、すべて一筆で書かれているように見えなくもない。
 何を書いた? 何を思った? 英語を省略したもの? それとも別の何か? 予想があっても確証がない。

「シグマ、他にも何か引っかかっているんじゃないか?」
「んー? どうしてそう思う?」
「会社を出るとき、お前の相棒が言ってた」

 早瀬の言葉に、ふと真崎の顔が過ぎる。あの世話焼きめ、と思うと同時に「さすが俺の相棒」と褒めて渋々と口にする。

さっきの人(・・・・・)、どこかで会ったことがある気がするんだよなぁ……どこだっけ?」

 シグマはさらに眉間に皺を寄せた。