何気なく口にした言葉に「だよね!? この感覚わかってくれる人ほかにいないと思ってた!」と舞衣は異様に喜んだ。

「はしゃぎ過ぎだろ」ぴしゃりと言い放っても彼女は、

「最近、私、ファンタジーにはまってるの。あんたはミステリーだったね」と明るく返す。とことん自分のペースに巻き込みたいらしい。翠も観念して彼女に歩幅を合わせた。

 三階に着き、南側の廊下に面している、木の色をした大きな扉を開く。
 日の光が当たって、少しだけ明るい色合いに染まったドアノブを下げる。
 カチャン、と軽やかな音がした。
 
 中に入ると、昼休み中の図書室はけっこう生徒がいて、周りに注意してささやき合いながら、静かに本棚を探す者であふれていた。
 この部屋は一階の保健室の次に広い大部屋で、蔵書数はちょっとした自慢になるほどだ。
 
 文庫本のコーナーに寄ると、二人は自然と各々好きに行動し始めた。
 翠は巨匠と名高いミステリー作家の列へ。舞衣は外国のファンタジー文学のところへ。