「学生寮はコインランドリーとクリーニング部屋が備えられているし、食事も三食ちゃんと作ってくれるでしょーが」
「それでも家にいる時と違うんだよ」

 翠が多少むきになると、舞衣は、
「まあ、学校の課題もあるしね」とあっさり引いた。

 彼女のいいところは、言葉の駆け引きが上手いところだ。相手の感情を敏感に感じ取り、その場の空気が悪くならないように最善の注意を払う。翠に限らず誰に対しても態度を変えないので、きっと彼女を信頼する仲間は多いのだろう。

 飯塚舞衣は、一つ年上の二年生で、夏央と同じ保健委員だった。

 週に二日保健室で作業をこなし、夏央と入れ違いにここへ来る。毎日のように保健室で昼休みを過ごす翠は、頻繁に出会う夏央や、舞衣などの上級生たちと、だいぶ話せるようになっていた。舞衣と同じクラスであり友達の、的場という女子生徒も、優しくて気遣い上手な先輩だ。
 
 同じ学年のクラスメイトより、余裕のある落ち着いた上級生たちと関わるほうが、楽しかった。