子どもと言わると腹が立つが、大人と言われても、少しむっとする。自分はそんな完璧な存在じゃない。でもポンコツとも言われたくない。結局、自分はどっちに転ぶのだろう。大人か、子どもか。またはそのどれでもないのか。
 
 翠は気だるい気持ちで、次の授業の予鈴が鳴るのを聞いていた。

   ○

 教室に自分の居場所はないので、昼休みになるとさっさと弁当箱を持って、保健室へ向かった。

 舞衣に返すための本も準備して、職員室の対面にある、大きな間取りの部屋の扉を開ける。
 
 すぐそこに彼女の姿があった。
「保険委員」とネームプレートを胸に下げて、二人の保険医と一緒に仕事をしている。
 もう一人の的場(まとば)という保健委員の女子生徒は、壁の本棚の整理をしている。

「舞衣」
 声をかけると、飯塚舞衣は、翠の差し出した本を受け取って、

「おもしろかったでしょ?」と得意げに言った。

「実は全部読む時間がなくて、飛ばして読んだ」
「えー、ちゃんと読めよー」
 
 舞衣は唇を尖らせた。

「だって今の俺ほとんど一人暮らしだもん。部屋の掃除も洗濯も、自分でしなきゃならないし」