坂を上り切ったと思った瞬間、体重を支え切れなくなって、翠はガクンとそのまま地面に倒れた。
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「保健係、あとは頼むぞ」
体育教師に背負われて本校舎の校門に着き、クラス全員の目に見つめられながら、翠はよろよろと二人のクラスメイトに腕を引かれて、保健室のほうへ歩いた。
体育教師が自分を探している間、クラスの皆がどんな話をしていたのか、簡単に想像できた。
あいつ、まただよ。もう体育出ないほうがいんじゃないの? 何で出るの? 迷惑かけんなよ。
彼らはこういう会話を、翠に直接聞かれないように陰でかわすのが、実にうまい。巧妙に翠のいない隙を狙って、翠がどれだけ自分たちのクラスの足を引っ張っているのか語り合うのだ。
こんなクソみたいなクラス、早く無くなってしまえばいいのにと、翠は仕返しに思っている。それが態度に現れているようなので、翠の周りから人が消えるのは案外早かった。もともといたわけではないが。
体育教師のもとに集まる皆の楽しそうなざわめきから外れて、翠は二人の保健委員に支えられながら、下駄箱で上履きに履き替え、ホールを通って保健室へと入った。