自分は妹を捨てた。そのはずなのに、今もなお面影を追っている。自分の片割れを。分身を。

 校舎を過ぎ、坂を下り終え、Uターンして上り坂に差し掛かる頃、息が切れ始めた。とたんに呼吸が苦しくなり、ゴホッ、と嫌な咳が喉から出た。徐々に失速する。

 だめだ。倒れてはいけない。迷惑をかけてはいけない。自分はもう普通の人間なのだから。
 
 翠は懸命に自身に言い聞かせた。けれど足がもたつき、重くなった。汗が噴き出ていた。ジャージのファスナーを開けて半そで姿になる。腰にジャージを巻き付け、息を大きく吐いて、吸ったりしながら、緩やかな傾斜を進む。
 
 上り坂は皆にとってもきついらしく、すでに歩いている生徒がいた。せめてこの人には負けたくないと思い、走る速度を落とさずに坂を駆け上がる。先まで、あと少し。上り坂を超えたら、次は本校舎に戻るだけだ。できる。もう何度も失敗したのだから、今度こそは走り切る。

 それでも、息は途切れ始めていた。翠の意思とは裏腹に、身体は悲鳴を上げている。急に、目の前が暗くなった。大きな黒い丸穴が点々と、視界に見え始めた時、景色がぼうっと色を失くし、頭が非常に熱くなった。