空の色は、まだ思い出せない。

   ○

 三学期が始まった真冬の雲一つない晴天。翠はジャージのファスナーをしっかり締めて、持久走の準備運動をしていた。

 周りの生徒たちは、適当に身体を動かしながら、仲間と気だるげな会話をしている。日光が気持ちいいのか、寒い寒いと言いながら、女子たちは互いの手をさすり合っている。
 
 翠は一人外れたところで、身体を温かくさせるために、手や足をのばしていた。準備運動さえしっかりやっていれば、少なくとも倒れるようなことは、いい加減ないだろう。

 体育教師が合図をして、皆は一列に並んだ。翠は一番端の位置に行き、深く息を吸った。笛が吹いた。わっと皆が一斉に走り出した。友達同士と並びながら、三十人の生徒たちは思い思いに固まって、校舎一周の持久走に励んだ。