佳純は夕莉の笑い顔を、ずっと見ていたいという思いを抱いた。
 彼女は、間違いなく自分の親友だった。
 
「佳純、私は、もう大丈夫」

 夕莉はなおも前を見つめて、力のこもった声を出した。

「大丈夫。絶対に大丈夫。言い切れるから、一般クラスに移って。がんばって。また遊びに来てね」
「……うん」

 泣かないようにするのが精一杯だった。
 夕莉の美しい横顔を、ずっと見ていたかった。
 進もうと決めたのは、ほかでもない自分自身だ。親友の夕莉に誓って、絶対に後悔はしない。彼女と別れることを。翠のことを好きになった自分を。
 
 この先、この二人と、どんな関係になるだろうか。兄たちと同じように疎遠になるだろうか。また一緒になれるだろうか。わからない。でも私たちの深すぎる苦しみは、今ようやく、終わろうとしている。そしてまた新たな苦しみも生まれるだろう。そんな時は、大切な人たちの笑顔や言葉を、思い出せばいい。

 バス停への分かれ道に差しかかり、佳純は、夕莉の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。「さようなら」「また明日」と、二言だけを告げて。