佳純は逸る心を隠し、「へえー」と上ずった声を出した。この二人に進展があったことは何より嬉しい。翠はまだ妹のことを見捨てていなかったのだ。

「どんな本なの? 小説?」
「ちょっと昔の本。文章もいっぱいあって、内容も難しくて、挿絵もないから少しずつしか読めないんだけど……。お兄ちゃんの手紙に『最後まで読め』って書いてあって」
「じゃあ、ちゃんと読まなくちゃね」

 夕莉は「うん」と照れながらうなずいた。今日は食欲もあるようで、ご飯を進めるのが早かった。
 その満ち足りた表情を見て、佳純は、きちんとこの友達に、本当のことを話そうと決意をした。今の彼女になら、すべてを打ち明けてもいいと思った。

 午後の授業を終えて、夕莉と並んで歩く帰路。佳純は三学期から、翠と同じ一般クラスへ編入することを告げた。移るクラス先も知らされていて、翠とは違う組だったが、移動教室の時間割次第では、鉢合わせることもあり得るということも話した。
 そして、彼に恋をしていたことも。
 
 夕莉は、もう泣くようなことはなく、ただ静かに聞いていた。