一緒に登校することはもうなくなっていた。それは合図も何もなくごく自然に訪れた。どちからともなく、二人はそれぞれ好きな時間に学校へ行っていた。
 ただ家へ帰る時は、相変わらず一緒だった。隣を歩く夕莉は、最近は佳純の左側を歩く癖がついていた。
 
 担任教師が入ってきて、十五分間の読書は始まった。佳純はそろそろ読み終わるティーンズ向けの小説を広げた。
 ちらりと夕莉の背中を見ると、彼女は、びっしりと隙間なく羅列された文章の本に集中していた。何やら難しそうだな、と思った。
 
「何読んでいたの?」

 昼休み、机をくっつけて弁当箱を広げ、佳純は夕莉に尋ねた。すると夕莉はぱっと花が咲いたように笑った。

「お兄ちゃんが私に送ってくれた本」

 びっくりして、思わず箸を落としそうになった。あの冷たい美貌が一瞬で佳純の脳裏に浮かんだ。

「す、すごいじゃん! 連絡があったの?」
「うん。昨日、包装されて家に送られてきたの。宛先見たら、ちゃんとお兄ちゃんの字だった。手紙もついてて」