きっとあの人は、計画的に私を落としたんだわ。
 殺さずにひどい目に遭わせる方法を、ずっと探していたんだと思う。
 あの庭で一番大きかった蜜柑の木の上に落とせば、命が助かると思ったのでしょうね」

 五兄は、いつも父親に怒られていた。気が弱くて、泣き虫の癖がいつまでも治らなくて、馬鹿にされていた兄。

 彼の親に対する憎しみは、そのまま肥大して、佳純を材料に使う動機にまで至った。

「俺が」

 長兄が両手で顔を覆った。

「俺が、お前をあやしていれば。もっとあいつのことを気にかけていたら」
「多分、お兄ちゃんたちに、お母さんの役目は、荷が重すぎたんだよ」

 佳純の心は穏やかだった。詭弁ではなく、誰のことも恨んではいなかった。

「荷が重いのに、自分じゃ似合わないことはわかっているのに、その仕事をしなくちゃいけないことって、あるよね」

 長兄は佳純の放つ言葉を、しばらく聞いていた。
 顔を覆っていた手を離す頃には、いつもの落ち着きを取り戻していた。
 
「スケジュール帳、買ってくれてありがとう。大事にするよ」