理由は、父親への八つ当たり。お前が一家で重宝されていたから、あいつは、お前を落とすことで、すべてをぶち壊してしまいたかったんだろう。
 俺とあいつが家に帰った時、泣きついてきたお前を抱いて、あいつは言った。
 俺が見ているから、兄貴はいいよ、と。
 俺は何の疑いもしなかった。
 夕飯の準備をしていると、庭ですごい音がした。
 お前が倒れていた。
 あいつは、笑っていた。
 そのあとのことは、思い出したくもない」
 
 長兄は顔に手を当てて、苦しそうに呻いた。

「だけど、どうして……」とかすれた声で訊く彼に、佳純は「蜜柑の木」と答えた。

「蜜柑?」
「そう。五番目のお兄ちゃんからの手紙に、今も蜜柑の木を見ると、お前のことを思い出します、と書かれていたの。
 蜜柑は、お前が生まれた年に植えたらしいですよ、とも。
 私が助かったのは、あの木に引っ掛かったから。
 うちでは蜜柑のことを気に掛ける人なんて誰もいなかった。あなたでさえ、私をあやす時は空を見せて、庭の木のことを忘れていたでしょう? 
 お兄ちゃんたちの中で、蜜柑の存在に気がついているのは、五番目のお兄ちゃんだけだった。