何か言おうと、頭の中で言葉を探している兄とは対照的に、佳純は、スラスラと、まるで芝居のように、台詞が口から舌に乗って出てきた。

「私を落としたのは、五番目のお兄ちゃんね? あの時家に帰ってきたのは、あなたと、そのお兄ちゃんでしょ?」

 問うと、長兄は、この世の果てのような暗い瞳を浮かべた。

「そしてきっかけは、お父さんなのね?」

 長兄は俯いて、罰を受ける罪人のようにうなだれていた。そしてゆっくりと口を開いた。

「どこにでもある、ごく普通の親子喧嘩だよ。馬鹿みたいな話さ。
 あの晩、あいつと父さんは激しい口喧嘩をしたんだ。原因は、何だったかな、思い出せないくらい些細なくだらないことで。
 お前は部屋の隅っこで震えて泣いていた。
 お前がそうなる時、俺は決まって、お前をなだめるために空を見せていた。うちの庭は広かったから、庭に出て、一番星を一緒に見つけた。お前をあやすのは俺の役目だったから。
 あいつは俺たちのことをずっと見ていたんだろう。
 その翌日、お前が落とされた。