「ああ、あいつらはしぶといから。お前が気にすることなんて何もないよ」
「そっか。ならよかった」

 佳純は再び紅茶を一口飲んだ。

「変わってなくてよかった」

 長兄は声のトーンを少し落として、安心するように一言漏らした。

「聡子さんたちから、お前がずっと悪夢にうなされているのを聞いていたから、どうにも心配で。でも抜け出せたみたいだから、よかった」
「……うん」
「お前は昔と変わらない。ずっと末っ子で、ずっと甘えん坊の、わがままなお姫様だよ」
「お父さんみたいなこと言うね」

 佳純がおどけて言うと、長兄の表情が一瞬固くなった。すぐにいつもの穏やかな顔に戻して、彼は残りのコーヒーを飲み干した。

「せめてお母さんみたいだと言ってくれよ」

 そうおどける長兄に、佳純は「そうだね。ごめん」と自分もおどけて返した。

 喫茶店を出て、アーケード街を二人でしばらく見て回ると、夕方近くになった。デパートで佳純が、今人気のマスコットキャラクターのスケジュール帳を見つけ、物欲しそうにすると、長兄がすぐに気づいて買ってくれた。

「お兄ちゃんは何でも買ってくれるなあ」
と感心すると、