怪訝な顔をされるかもしれないと思ったが、彼は佳純の回答を笑ったりはしなかった。少し黙り込み、それから吐息を一つ吐いて、昔を思い返すように懐かしげな瞳をした。

「佳純は昔から箱入り娘だったからな。父さんも母さんもひどく甘やかしてさ」
「……うん」
「俺らなんか男だから、皆放っておかれて勝手に育って。佳純が羨ましかったなあ。お前はずっと、大人の誰かにべったりだったろ?」

 そう言われて、自分が保育園児だった時のことを思い出した。確かに一番気に入っていた保育士に、四六時中つきまとっていた記憶がある。

「……よく覚えているね」
「俺は物覚えがいいのですよ」

 長兄が少し自慢げにかしこまった。佳純は笑って、目の前にある紅茶を口に含んだ。甘さと苦さが同時に舌に伝わって、気持ちよかった。

 ……やはり、彼なのだろうか?

 佳純の疑心はなおも鋭い光を放って、向かい側の男を捉えていた。

 佳純が窓から落とされた八歳の時、兄たちはまだ学生だった。誰があの時間帯に帰宅してもおかしくないのだ。

「……ほかの人たちは元気?」

 それとなく尋ねると、長兄は目を細めて笑った。