今年で二十五になる長兄は、もう立派な大人の男の風貌に近づいていた。身体つきがすっきりとして、社会に出たての新人の頃からだいぶ揉まれた余裕のある表情が、佳純との長い隔たりの年月を物語っていた。もうこの人は他人と言っていいくらい、佳純の心は達観していた。

 文化祭を終えて、いつもの気だるい毎日がやってきた秋の半ば、聡子を通して、長兄から連絡が来た。

 土日でどこか会えないかという誘いを受けたのは、初めてだった。思えばあれ以来、直接的な関わりを避けてきたともいえる。何かあったのかもしれないと、佳純は、不安と期待で押し寄せ合っている感情の波に、たゆたっていた。
 
 実際に会ってみると、話は弾んだ。長兄は気を使ってくれているのか、慎重に言葉を選びながらも、佳純から思い出話を上手く引き出せていた。

「そうか。友達できたか」

 コーヒーを一口飲んで、長兄は言った。

「でもどうして、せっかく入ったデイケア組を編入してまで、一般クラスに?」
「……世界を、もっと広く見てみたいの」