「あなたは運がなかっただけです」

 それまで悪玉菌のように繁殖していた負の感情が、すとんと落ちて消化されていくのを感じた。

 運がなかっただけ。
 
 その言葉は魔法のように佳純の心を洗い流した。
 
 それからは、毎月そこの病院へ行って診察を受けている。
 
 薬をもらって飲むようになってから、悪夢を見る頻度は少なくなり、やがてごくたまにしかうなされなくなった。悪夢に起きた日は、常備している薬を飲んで窓から空を眺めた。

 真っ暗闇の空に、星や月が浮かんでいるのを見つけた日は、嬉しくなった。佳純にとって空とは、心の安定剤のようなものだった。
 
 兄たちから連絡が来たのは、聡子たちとの暮らしに慣れてからしばらく経った頃だった。

 最初に手紙をくれたのは長兄で、すぐあとに次兄、しばらくして五兄も連絡をくれた。何気ない近況報告の中に、佳純をいたわる文が綴られていると、ほっとした。五人のうち三人と繋がりがあるのなら、それだけでいいと最近は思えるようになった。