気を失う間際、ベランダが見えた。

 兄がこちらを覗き込み、薄い笑みを浮かべていた。

   ○
 
 そのあとの記憶は、もう聡子と稔に出会った施設の場所だった。

 長兄が佳純の手を強く握りしめ、この子をよろしくお願いします、と頭を下げた。
 
 聡子たちは優しそうな大きい掌で、佳純の頭を撫でた。
 
 絶対に守り抜きます、と稔の声が降ってきた。
 
 記憶を取り戻しそうになったら連絡をください、と伝えると、長兄は佳純と握っていた手を完全に離した。
 
 家族がバラバラになることに対しては、そんなに驚かなかった。もうずいぶん前から、自分たちはバラバラだったのだから。
 
 では私を落としたのは、一体誰なのだろうと、それだけが、気がかりだった。
 
 聡子たちの家に来てから数日と経たないうちに、今度は悪夢を見始めた。

 ほぼ毎日のように見続けて、夜中に泣き叫んで飛び起きた。眠るのが怖くなった。次第に眠れなくなって、布団の中で身体を丸めて泣き続けた。

 聡子たちが心配して、佳純をいろいろな病院に連れていった。四回目の診察で、現在の精神科医に行き着いた。