ガチャン、と鍵が勢いよく回る音がして、重い扉が開いた。

 佳純が力いっぱい引っ張って開ける扉を、軽々と開け放って家に上がり込んだ兄を見て、佳純はとうとう、無我夢中ですがりついた。
 
 お母さんを返せ! お母さんを返せ! 何で私の家だけ違うんだ!
 
 叫ぶうちに涙が出て鼻水と一緒に流れ、佳純の顔はボロボロに崩れた。力任せに叩いてもびくともしない兄の胸板が、こんなにも憎たらしく見えたのは初めてだった。
 
 ふわり、と身体が浮いた。

 兄に抱きかかえられたのに気づいた。
 
 佳純がぐずっていると、兄はそのまま二階へ階段を上がり、ベランダに出た。
 
 自分を慰めてくれているのだろうか、と目いっぱいに広がった夕暮れの迫る空を見た。

 地平線に日が浮かび、そこに雲がかかって、激しいピンク色に染まっていた。真上のほうを見ると、兄の顎の先から、深い群青色の空が見えて、星たちがキラキラ光っていた。綺麗、と思った。
 
 ふいに身体の重力がなくなった。

 星空がガクンと落ちて、猛スピードで、世界は一点に向けて消えていった。
 
 頭か身体か、強い衝撃が走って、視界が暗くなった。