あなたの家、大家族なんだよね? お母さん死んじゃって大変だね。地元の小学校の子どもたちは皆、親から佳純の家の事情を聞きとっていたらしく、それぞれ言葉尻を変えながら、こんな風な台詞を言った。佳純は曖昧に笑った。

 年月が経つうちに友達が何人かできて、家に招待され、驚いたのは、自分一人の部屋が与えられていることだった。

 佳純は父と一緒の部屋で生活していた。兄たちは大部屋で一緒くたにされていたので、一人部屋という世界が想像できなかった。
 
 カルチャーショックを受けながら、友達の母親が出したお菓子を食べている時、自分だけ、空間が歪んだ場所にいるような疎外感と、漠然とした不安が、押し寄せてきた。
 
 私だけ違う。私の家だけ違う。
 
 なぜか泣きたくなって、友達と遊ぶことに集中できないまま、微妙な時間帯に帰宅した。
 
 家には誰もいなかった。
 
 玄関のドアが開いて、兄のうちの誰かが帰ってくるまで、佳純は居間の座椅子に座り込んで、膝を抱えて待っていた。
 
 喉がカラカラに乾いて、台所でジュースや麦茶を飲んだりしながら、また玄関が見渡せる位置に座椅子をずらして待った。