佳純は、あの時と同じような、深い青に染まった空を見つめ続けていた。夕暮れ時の空は、青だ。橙色の夕焼けは、地平線にしかない。本当の夕暮れとは、深い悲しみのような青い空のことなのだ。

「……少し、昔の話をしてもいい? あなたを救えるヒントが隠されているかもしれない。私とあなたは、似ているから」

 夕莉が決心したようにうなずいた。佳純は心の奥底にしまった記憶の箱を開けて、ゆっくりと、自分の身に起こった出来事を語り始めた。

   ○

 母が亡くなったのは、五歳の時だった。

 事故か病気か、もう覚えていない。確かめる術もなかった。

 太陽のように光り輝いていた母がいなくなり、皆に平等に注がれていた愛は、大きく歪み始めていった。
 
 五人の兄は、長兄と次兄がしっかりとした人で、下のほうの五兄は、落ち着きがなく、ドジばかりしていた。

 母はこの三人の兄のことが割と好きで、真ん中の三兄と四兄は、どちらかというと放っておいた。
 
 そして佳純のことは、目に入れても痛くないほど可愛がっていた。
 
 そんな風に八人の大家族は成り立っていた。