翠は誰の顔を見ることもなく、保険医から学生鞄をひったくって、夕莉の横を通り過ぎた。

 妹に一瞥すらくれなかった。
 
 佳純は隣にいる夕莉から、あふれ出ている激情を、受け止めきれずに逸らした。
 
 翠は舞衣のもとへ行き、「いきなり大声出してすみませんでした、先生。それじゃあ先に失礼します。夏央先輩、冬華先輩、お元気で」としらじらしい挨拶をすると、バタンと無情にドアを閉めた。
 
 その場にいる誰もが動けなかった。

「何で」

 夕莉がこらえきれなくなったように、一言つぶやいた。

「何で。何でよ。ちゃんと言ってよ」

 夕莉の息が上がり始めた。ついに彼女はしゃくり上げて、その場に泣き崩れてしまった。

 苦しそうに息を吐き、頭痛が起こったのか、頭を両手で抱えてしゃがみ込んで、「うぅ……」と喘いだ。
 
 倒れてしまった夕莉を保険医と介抱しながら、佳純は、気まずそうに顔をしかめている夏央と冬華に、言葉をかけた。
 
「先輩、話してください。飯塚舞衣さんと、あなたたちは、どういう関係なのか」