その場にしんとした沈黙が流れた。皆が彼の威圧感に負けてたじろいでいた。

「あの、私、ずっとお兄ちゃんのことが心配で」
「うるせえんだよ!!」

 夕莉の紡いだ言葉を、翠は怒声で叩き潰した。夏央たちまでもがどうしたらいいのかわからず、互いに困惑した表情で見つめ合っていた。

「何でこうも俺の前に現れるんだよ! もういい加減離れろよ! 俺がどんな思いで……!」

 そう言いかけたところで、突如ドアが開いた。

 何のためらいもなく入ってきた一人の女子生徒に、全員が唖然とした。
 
 佳純は彼女を見ると「あっ」と小さな声を上げた。
 
 あの時、同じように堂々とデイケア組に入ってきた女子生徒―飯塚舞衣がいたのである。
 
「ま、舞衣?」

 夏央と冬華がそろって素っ頓狂な声を上げた。やはり彼らは知り合いらしい。

「あら、失礼。お取込み中?」

 舞衣はすました声で、冷静に事の状況を把握した。

「翠を迎えに来たんだけど。倒れたって聞いたから」

 先ほど夕莉が言ったこととほぼ同じことを言いだした舞衣に、ただ一人、翠だけが返事をした。

「ああ。来てくれてありがとう。一緒に帰ろう」