夏央が、固まってしまっている佳純と夕莉の肩をポンと叩いた。そして大股で歩き出す。冬華も「行こう」と真剣な瞳で二人に語りかけた。

 佳純は夕莉と握っていた手を離して、おろおろと夏央たちについて歩いた。夕莉が横で兄の名を呼んだのが聞こえた。

   ○

 廊下を突き抜けたところにある保健室へ入ると、夕莉が「先生」と保険医のほうへ駆け寄った。

 保険医はまるでずっと待っていたかのように、柔らかな笑みを携えて「青花さん」と夕莉の肩に手を載せた。
 
「青花君。お友達が来てくれたよ」

 保険医が奥のカーテンをそっと開けて、中の様子を見た。続けて「……友達?  舞衣か?」と、あの懐かしい低い声が聞こえた。眠いのかどことなくとろんとしている声が、余計に懐かしさを増幅させた。

 カーテンの奥から、翠が現れた。

 しばらく経った間に背が伸びたのか、身体つきがほんの少しだけ大きくなったような感じがした。
 
 切れ味鋭い刃物のようなスッとした目に、困惑したような瞳が、その場にいる者を捉えていた。
 
「久しぶりだな、翠」
 
 夏央が代表して彼に挨拶をした。